《市立五條文化博物館》
設計:安藤忠雄建築研究所
竣工:1995年4月(1998年1月増築)
先月、安藤忠雄さんの建物をまわることがあって、
その日のことをやっとひとかけらだけ書き留めながら、
私自身へのもどかしさでいっぱいになってた。
そんな心境も悪くはないのだけど、とどまってるのも好きじゃない。
そこで向かったのがやっぱり安藤建築。
となりの公園から。
円形の建物には「五條バウム」(バウムは木の意)の愛称がある。
もっといい写真が撮れるのかなあと思って周辺の小山を登ってみたけれど、
豊かな樹々に遮られて、ここが唯一全体をとらえられる場所だった。
こんもりとした緑にいつか覆われてしまいそう。
私がおばあちゃんになったときにも、この場所からこれを観てみたいな。
そのときまで気力と体力と経済力が残っていますように。
中は3フロアになっていて、上から降りてまわる順路になっている。
写真は2階から見上げた階段。
ひととおり展示を見終わって、バウムの空洞にあたる円形広場に出てみた。
いつも建物を撮ってて思うのだけど、空間全体から感じられるものがなかなかフレームにおさまらない。
広場の石段に腰掛けて、ひとりきりで空を眺める。
しばらくぼんやり考えごとをしてからお昼ごはん。
ここはレストランも自販機もないので、長居するなら持参しておくこと。
JR五條駅はキオスクもコンビニもなくて、柿の葉ずしの専門店だけがある不思議な駅だった。
でもその柿の葉ずしこそがこの地にふさわしい。陰翳礼讃。
バウムの端にあたるところ。
展示室を出たところ。入るときには背にしていた風景にはっとさせられる。
増設された茶室。CasaBrutusみたいに室内から撮ったらきれいだったかな。
建物も良かったのだけれど、同じくらい私が見入ってしまったのは五條の祭り事の展示で、
1階の最後のコーナーで紹介されている。
無駄のないシンプルな映像と、実際に使われている仮面や道具の展示が効果的だった。
その中でも毎年1月14日に行われる陀々堂の「鬼はしり」という行事が印象的。
松明を持った三匹の鬼が堂内をまわる姿が勇ましいし、
その当日を迎えるまで、鬼役が身を清めたり鍛えたりしている日々も清々しい。
帰りのタクシーの運転手さんによると、いい場所でみようとすると、
寒さのなか夜の7時頃から待つことになるそう。
それで2時間ぐらい待って、お祭りは一瞬のように終わってしまうらしい。
なんだか惹かれてしまうのは、その日読んでいた『吉野葛』にあたってしまったのかな。