「永井荷風のシングル・シンプルライフ」(世田谷文学館)

http://setabun.jp/exhibition/kafu/

去年の終わり頃からなんとなく楽しみにしていた企画展。
私の20歳前後は、ずっとこの人が基準で価値観が決められていたような気がする。
先日読んだ川本三郎さんのエッセイにも荷風が登場してたっけ。
川本さんは私とは年齢も性別も職業も違う人だけれど、いくつも共感できるところがあるのは荷風を介しているからなんだと思う。
価値観が似ているから荷風を好きになったのだとも考えられるけど。


女性蔑視やエロスのイメージが強いせいか、私が卒論のテーマにしていることを告げると、ゼミの男の子にも担当教授にも不思議な顔をされたっけ。
ただ他大学から講師として講義をしに来られていた教授の方は気持ちよく応援してくださるようで、新聞の切り抜きをくださったり、御自分の卒論の経験を話してくださったりしたのだった。
その教授のご子息は私の絵画部の先輩で、ある時期はおつき合いしていたこともあったのだけど、父になる教授の方はそのことを知らない。
親子に好かれるものなんだなあと、授業後声をかけられるたびに可笑しくなってたささやかな思い出。


ええと企画展のことを。
展覧会自体は、荷風が好きな人だからこそ楽しめるものだと思う。
原稿や身の回りの品々を集めた展示。
また読みなおしたくなる作品がつぎつぎと浮かんできた。
今回の展覧会は、荷風の生き方が現代の都市的独身生活を満喫する人々の手本になるのではないか、との視点でつくられている。
私も学生のときに荷風が素晴らしいと感じたのは、彼の合理的な物事の捉え方と、それに差し込まれる情緒のバランスの良さだった。
なかなかこの人の作品を気軽に勧められるような人はまわりにいないのだけど、文語調を音楽のように気持ち良く読み通せるのだったら、『日和下駄』のエッセイとかから始めるのがよさそう。
私はずっと『つゆのあとさき』『江戸芸術論』が好きだ。

日和下駄 (講談社文芸文庫)

日和下駄 (講談社文芸文庫)

つゆのあとさき (岩波文庫 緑 41-4)

つゆのあとさき (岩波文庫 緑 41-4)

江戸芸術論 (岩波文庫)

江戸芸術論 (岩波文庫)


ちなみにこの展覧会はこの本が軸になっているよう。
知らなかったので読んでみたい。

朝寝の荷風

朝寝の荷風


あと作品も出品されている、人形作家の石塚公昭さんのこの本も面白そう。
荷風以外に、石塚さんが好きな鏡花、三島、谷崎などを取り上げられているよう。

Object Glass12

Object Glass12



文学館の梅が咲いてた。ほんとは館内から眺める方がきれい。