「存在の耐えられない軽さ」

存在の耐えられない軽さ [DVD]

存在の耐えられない軽さ [DVD]

学生のときに気になった映画だった。
でもビデオのパッケージ写真をみて借りられないなあと思い、そこからふたたび頭に浮かんでくることはなかった。
なぜ今になって観ることになったのかというと、先月の世界文学全集の配本がこれで、とても良かったから。


DVDの時間は3時間近く。
その長さでも原作の内容は網羅できない。
でも原作の世界を損なわず大筋をきちんと捉えていて、よくできていると思った。
J・ビノシュがやっぱりすごくて、洗練されてなさそうでそれが魅力的に映る女性を演じてる。
愛人役のレナ・オリンもイメージに近かったし。
DVDのレビューとかを読むと、プレイボーイの脳外科医師とその妻と愛人の波乱の人生を描いた恋愛映画に過ぎないような印象を受ける。
公開当時は幾度も繰り広げられるセックスシーンやJ・ビノシュのヌードも話題になったんだろうなあ。
でも原作と重ね合わせると、ソ連の軍事介入で激変するプラハを舞台に、その時代に生き抜く登場人物に感応してしまう。
意にそわない声明文に署名をして、愛情を本気で考えなければ、安定した生活が得られた医師夫婦。
愛なんて、そんなつまらないもののために愚かしい。現代人だったらそう考えるだろう。
でも愛と信念がなかったら、なんのために生きているの?
観ている間、ずっとそう問われ続けているようだった。

印象的だったのはテレザが見知らぬ技師の誘惑に応じて、部屋を訪れるシーン。
怯えと後ろめたさ、諦め、意志を裏切る身体の反応。
全てをごちゃまぜにした空虚なセックスの描き方がうまいなあと思った。
あとテレザの夢の中である、プールのシーンも。
そのような感じで自殺志願者を処刑するペトシーンの丘の場面もあったらよかったな。
原作では作者のミラン・クンデラの思想が圧倒的でそれほど感じなかったけど(第6部「大行進」のキッチュの定義に至る話の展開はすごい)、
主人公の脳外科医師トマーシュはどんな立場にあっても自信があってとてもかっこよかった。


存在の耐えられない軽さ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-3)

存在の耐えられない軽さ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-3)