吉田修一『静かな爆弾』

静かな爆弾

静かな爆弾

数日前に書店で見かけたときから、タイトルが気になっていた。
テレビ局に勤める俊平の、聴覚に障害のある響子との出会いから始まるおはなし。
吉田修一さんの恋愛が中心になる小説は、途中で読む気持ちが冷めていくことが多いので不安だったけれど、この『静かな爆弾』は最後まで夢中になって読んでいた。
空港の待ち時間から羽田に到着するまで、貪るように。
読んでいる途中で2度程強く胸を衝かれる場面があって、どうしようもなく本を閉じてしばらく考え込んでしまうときもあった。
私が初めて吉田さんの本を手にしたのは『パークライフ』で、外出中手持ちの本がなくて、なんとなく地下街の書店で手に入れた文庫本だった。
あのときのふわふわとした読み心地に比べて、なんて今回の本は凄みを感じさせるのだろう。
響子との感覚の違いを描く場面に、神々しい恐ろしさが潜んでいると思った。
そして読んでいる感覚が研ぎすまされているところに、俊平の繊細な思いやりの目線が心にしみ込んでくる。
不思議なくらい自然に、大切な人との関係を考えさせられるのだった。

パーク・ライフ (文春文庫)

パーク・ライフ (文春文庫)