『サイドウェイー建築の旅』廣部剛司

サイドウェイ―建築への旅

サイドウェイ―建築への旅


お盆の旅行中持ち歩いていたんですが、
暑い中の移動は体力を消耗するらしく、車内や室内でもぐったりしていて、
4分の1ぐらいを読み残し、帰宅してから読了しました。


筆者が勤めていた設計事務所を辞めて、
独立する前の8か月間の長旅を纏めた建築旅行記
あとがきにも触れられていますが、
旅していたのが1998年のことで、7年経ってから書き始めたんだそう。
その長い年月のふるいにかけ、それでも記憶に残る建築を取り上げているようです。
建築物の直接的な説明だけでなく、
その周辺に関わる映画や音楽などの芸術文化も絡めて綴られているのに、
文章の深みを感じました。
ときにはごく私的なエピソードも描かれるのですが嫌な感じはなく、
むしろ共感する部分もあったんです。


例えば「ハレーション」という章ではマーク・ロスコのそれとは知らずに、
《ロスコ・チャペル》に足を踏み入れたときの感動が書かれているのですが、
これは廣部さんがこのチャペルを知らなかったけれど、
ロスコが好きという気持ちを持って旅をしているからこそ出会えた感激だといえます。
そこから言い換えると、この世のすべてを知っているわけではなく、
それでも日々興味を失わずに過ごしている人々に訪れる喜びということ。
だから無理に全てを知ろうとしなくてもいいんだと、
でも興味のアンテナは常に張っておきたいと思ったのでした。


他、コルビュジェ、ライト、カーンなどの有名な建築物も登場しています。
カルロ・スカルパ、ルイス・バラガンといった建築家のエピソードは、
どんな機会に読んでもその生き様にひきこまれてしまいます。